「気になる前歯だけ、手軽に短期間で治したい」というニーズに応える部分矯正は、確かに魅力的な選択肢の一つです。しかし、その手軽さや費用の安さだけに目を向けて安易に部分矯正を選択してしまうと、思わぬ落とし穴にはまり、後悔する結果を招く可能性があります。部分矯正が適応とならないケースに無理やり適用したり、不十分な診断のもとに治療を進めたりすると、様々な問題が生じかねません。まず考えられるのは、期待したほどの審美的な改善が得られないことです。例えば、前歯のガタつきの原因が、実は奥歯の噛み合わせのズレや顎全体のスペース不足に起因している場合、前歯だけを無理に並べようとしても、歯が前方に突出しすぎてしまったり、不自然な傾きになったりすることがあります。結果として、見た目の問題が解決しないばかりか、かえって口元のバランスが悪化してしまうことさえあり得るのです。次に深刻なのは、噛み合わせの悪化です。歯は上下左右でバランスを取りながら機能しています。一部分の歯だけを動かすことで、他の部分の歯との調和が崩れ、特定の歯に過度な負担がかかったり、顎関節に不必要なストレスがかかったりすることがあります。これにより、食べ物が噛みにくくなる、顎が痛む、頭痛や肩こりが生じるといった機能的な問題が現れることがあります。見た目は多少良くなったとしても、噛む機能が損なわれてしまっては本末転倒です。また、治療後の後戻りのリスクも高まります。根本的な原因が解決されていないまま部分的な修正を行った場合、歯は元の位置に戻ろうとする力が強く働きやすくなります。その結果、せっかく時間と費用をかけて治療したのに、短期間で歯並びが再び悪化してしまうという残念な結果になることも少なくありません。これは、保定装置をしっかり使用していても起こり得る問題です。
部分矯正の落とし穴?安易な選択が招く後悔