私が歯列矯正を決意したのは三十代半ばのことでした。昔から歯並びの悪さにはコンプレックスがありましたが、それ以上に将来への不安が大きかったのです。私の両親は比較的若くして部分入れ歯になり、食事の際に苦労している姿を間近で見てきました。歯科検診では、歯並びが悪いと磨き残しが多くなり、虫歯や歯周病のリスクが高まると指摘されていました。このままでは自分も将来、両親のように入れ歯のお世話になるかもしれない、そう思うといてもたってもいられなくなり、矯正専門の歯科医院の門を叩いたのです。検査の結果、私の場合は数本の抜歯が必要なものの、矯正治療によって大幅な改善が見込めるとのことでした。治療期間は約二年半と長く、費用も決して安くはありませんでしたが、将来の健康への投資だと考え、治療を開始しました。最初の数ヶ月は装置の違和感や歯が動く痛みで食事が辛い時期もありましたが、徐々に慣れていきました。何より、鏡を見るたびに少しずつ歯並びが整っていくのが目に見えて分かり、それが大きなモチベーションになりました。大変だったのは毎日の歯磨きです。装置の周りは特に汚れがたまりやすく、以前よりも時間をかけて丁寧に磨く必要がありました。しかし、これも将来の歯周病予防のためだと思えば苦にはなりませんでした。そして長い治療期間を経て装置が外れた日、鏡に映る自分の整った歯並びを見た時の感動は今でも忘れられません。食べ物がしっかりと噛めるようになり、以前よりも自信を持って笑えるようになりました。矯正治療を終えて数年経ちますが、定期的なメンテナンスと丁寧なセルフケアを続けることで、今のところ虫歯や歯周病の兆候もなく、健康な歯を維持できています。歯列矯正は見た目の改善だけでなく、将来の歯の健康を守るための大切な一歩だったと心から感じています。入れ歯になる可能性を少しでも減らしたいと考えている方にとって、歯列矯正は検討する価値のある選択肢の一つだと思います。