歯列矯正を始めると、ワイヤーを調整した後や新しいマウスピースに交換した際に、歯が締め付けられるような痛みや、噛むと痛いといった症状が出ることがあります。この痛みを「歯が動いている証拠」と捉え、痛みがなくなると「歯が動いていないのでは?」と不安になる方が少なくありません。しかし、「痛みがない=歯が動いていない」というのは必ずしも正しくありません。むしろ、適切な矯正力でスムーズに歯が移動している場合、痛みは最小限に抑えられるか、ほとんど感じないこともあります。歯が移動するメカニズムは、歯に持続的な力を加えることで、歯の進行方向の骨(歯槽骨)が吸収され、反対側に新しい骨が添加されるというリモデリング現象を利用しています。この骨の吸収と添加は、炎症反応を伴うため、初期には痛みや違和感として感じられることが多いのです。しかし、体がその刺激に慣れてきたり、歯の移動が安定期に入ったりすると、炎症反応も落ち着き、痛みを感じにくくなります。また、治療の段階によっても痛みの感じ方は異なります。例えば、歯を大きく動かす段階や、捻じれを治す段階では痛みを感じやすいかもしれませんが、歯列の細かい調整や、噛み合わせの仕上げの段階では、比較的痛みが出にくい傾向があります。もちろん、痛みの感じ方には個人差が大きく、同じ矯正力でも全く痛みを感じない人もいれば、数日間食事に苦労する人もいます。大切なのは、痛みがあるかないかで歯の動きを判断するのではなく、定期的な歯科医師のチェックによって、客観的に歯が計画通りに動いているかを確認することです。もし、痛みが全くないことで不安を感じる場合は、遠慮なく担当医に伝え、歯の動き具合を説明してもらいましょう。逆に、痛みが強すぎる、長期間続くといった場合も、何らかの問題が起きている可能性があるので、速やかに相談することが重要です。