歯列矯正を始めると、多くの方が歯が少しグラグラと動く「歯の動揺」を経験します。「歯が動いているのは嬉しいけれど、こんなにグラグラして大丈夫?もしかして歯が抜ける前触れなんじゃないか…」と心配になるかもしれませんね。確かに、歯が揺れる感覚は普段あまり経験しないことなので、不安に感じるのは自然なことです。しかし、矯正治療中に歯が一時的に動揺するのは、多くの場合、歯が計画通りに正しい位置へ移動している証拠であり、心配いらない生理的な反応です。歯は、矯正装置によって加えられる持続的な力に応じて、歯を支えている骨(歯槽骨)の中で少しずつ位置を変えていきます。この過程で、歯と骨の間にある歯根膜という組織が変化し、一時的に歯の支持が緩むため、歯がわずかにグラグラするように感じられるのです。特に、ワイヤーを調整して新しい力がかかり始めた直後や、歯が大きく移動している時期には、この動揺を感じやすい傾向があります。通常、この程度の動揺であれば、歯が目標の位置に収まり、周囲の骨が安定してくると自然に落ち着いてきます。ただし、注意が必要なケースもあります。もし、歯のグラグラが非常に大きい、指で押すと明らかに大きく動く、強い痛みを伴う、食事をするのが困難なほど不安定、あるいは長期間にわたって動揺が全く改善しないといった場合は、何らかのトラブルが起きている可能性があります。例えば、加えられている矯正力が強すぎる、歯周病が進行している、歯の根に問題が生じている(歯根吸収など)といったことが考えられます。このような「いつもと違う」「これはおかしいな」と感じるサインがあった場合は、自己判断せずに、速やかに担当の歯科医師に相談することが非常に重要です。歯科医師は、レントゲン検査などを行い、原因を特定し、必要な処置を講じてくれます。不安なことは小さなことでも遠慮なく伝え、安心して治療を進められるようにしましょう。