約2年半にわたる歯列矯正治療を終え、ついにブラケットとワイヤーが外れた日の解放感と感動は、言葉では言い表せないほどでした。鏡に映る、まっすぐに整った自分の歯並びを見て、思わず何度も指で触れてしまいました。歯の表面がツルツルで、食べ物が装置に引っかかる心配もなく、思い切り笑える幸せを噛み締めました。「これでやっと矯正生活から解放される!」と、当時は本気でそう思っていました。しかし、歯科医師の先生から告げられたのは、「本当の戦いはここからです」という言葉と、リテーナー(保定装置)の重要性でした。歯は、矯正装置で動かした後も、元の位置に戻ろうとする性質(後戻り)があるため、歯並びが安定するまでの一定期間、リテーナーを装着して歯を支える必要があるというのです。私の場合は、取り外し可能な透明なマウスピースタイプのリテーナーを上下の歯に、そして下の前歯の裏側には固定式のワイヤータイプのリテーナーも装着することになりました。最初は、ブラケットが外れた喜びに比べれば、リテーナー装着の面倒さなど大したことではないと思っていました。しかし、実際にリテーナー生活が始まると、これが意外と大変でした。食事と歯磨きの時以外は基本的に24時間装着するように指示されましたが、食事のたびに外してケースにしまい、食後は歯磨きをしてからまた装着するという一連の作業が、正直言って面倒くさいのです。特に外食時や、ちょっとした間食の時など、「少しくらい外していても大丈夫かな」というサボり心が芽生えることもありました。また、話しにくさも少し感じましたし、朝起きるとリテーナーが少しきつく感じることもありました。しかし、せっかく時間とお金をかけて手に入れた綺麗な歯並びを後戻りさせてしまうことだけは絶対に避けたかったので、「これも治療の一環だ」と自分に言い聞かせ、真面目に取り組むように心がけました。歯科医院での定期的なチェックも欠かさず受け、リテーナーの適合状態や歯並びの状態を確認してもらいました。リテーナー生活を続ける中で、矯正治療を経験したことで、自分の歯に対する意識が格段に高まったことを実感しています。以前は適当に済ませていた歯磨きも、今ではフロスや歯間ブラシを使い、一本一本丁寧に磨くのが習慣になりました。