Aさん(20代後半、女性、オフィスワーカー)は、長年にわたりコンプレックスとして抱えていた叢生(歯がデコボコに生えている状態)を根本から改善し、自信の持てる笑顔を手に入れたいという強い願いから、上下の顎にマルチブラケット装置と、特に噛み合わせの力を支える必要がある臼歯部へのバンド装着を伴う本格的な歯列矯正治療を開始しました。治療が始まってから数ヶ月が経過し、Aさんの歯並びは目に見えて徐々に整い始め、治療効果を実感し始めていましたが、その一方で、Aさんは新たな、そして非常に深刻な悩みを抱えるようになっていました。それは、自分自身の口の中から常に発せられる、なんとも不快な臭いでした。特に、奥歯にしっかりと装着された金属製のバンド周辺からの臭いが強く感じられ、日中の仕事での会議中や、親しい友人との会話の最中にも、無意識のうちに口元を気にしてしまい、発言をためらったり、相手との距離を取ってしまったりするなど、精神的なストレスが日増しに大きくなっていくのを感じていました。Aさんは当初、この問題を自己解決しようと、市販されている清涼感が強いミント系の歯磨き粉を選んで使用し、さらに毎日の歯磨きの回数を通常よりも増やすことで対処しようと試みました。しかし、これらの対策では、歯磨き直後の一時的な爽快感は得られるものの、根本的な臭いの改善には至らず、しばらくするとすぐにまた不快な臭いが戻ってきてしまうという状況が続いていました。デンタルフロスも日常的に使用していましたが、奥歯のバンド周りの複雑な形状に対してフロスを的確に操作することが難しく、清掃が不十分であるという感覚を拭えずにいました。このままではいけないと悩んだ末、Aさんは、月に一度の定期的な調整のために通院していた矯正歯科クリニックで、担当の歯科衛生士にこの深刻な悩みを正直に打ち明けることにしました。歯科衛生士はAさんの訴えを真摯に聞き取り、まずは口腔内を詳細に診査しました。その結果、やはりAさんが気にしていた奥歯のバンドと歯肉(歯茎)との境界部分や、バンドと隣接する歯の間に、プラーク(細菌の塊)の顕著な蓄積が認められました。