歯科医に聞く!矯正やめたい患者の心理
歯科医師として長年、歯列矯正治療に携わっていると、「治療をやめたい」と相談に来られる患者さんに少なからず遭遇します。その理由は様々ですが、多くの場合、治療開始前に抱いていたイメージと、実際の治療生活との間にギャップが生じていることが背景にあるように感じます。例えば、予想以上の痛みや不快感、食事の制限、見た目の問題、あるいは治療期間の長さに対する不安などです。特に成人矯正の場合、仕事やプライベートとの両立も課題となり、精神的な負担が大きくなることもあります。私たちが患者さんから「やめたい」という言葉を聞いた時、まず行うのは徹底的なヒアリングです。なぜそう思うのか、何が一番辛いのか、具体的な状況を丁寧に伺い、患者さんの気持ちに寄り添うことを最優先に考えます。その上で、現状の問題点を解決するための具体的な提案を行います。例えば、痛みが強い場合は鎮痛剤の処方やワックスの使用方法の再指導、装置の調整などを行いますし、治療期間に不安を感じている場合は、改めて治療計画の進捗状況を説明し、今後の見通しを共有します。場合によっては、治療ゴールを部分的に変更したり、一時的に治療を休止したりすることも選択肢の一つとして検討します。重要なのは、患者さんと医師との間のコミュニケーションです。治療開始前のカウンセリングでは、メリットだけでなく、デメリットや起こりうる不快症状、おおよその治療期間などを包み隠さず説明し、患者さんに十分理解していただくことが不可欠です。そして治療中も、患者さんの不安や疑問に耳を傾け、信頼関係を築きながら二人三脚でゴールを目指す姿勢が、治療を成功に導く鍵となると考えています。