矯正したら面長が悪化したという誤解
田中さん(仮名)は、長年悩んでいた叢生を治すため、歯列矯正を開始しました。治療が進み、歯並びが整ってきたことに喜びを感じていたものの、ある時から「なんだか以前より顔が長くなったような気がする」という不安を抱えるようになりました。鏡を見るたびに、特に中顔面から下顔面にかけての長さが気になり、矯正治療が原因で面長が悪化したのではないかと悩んでいました。しかし、矯正担当医に相談し、治療前後の顔写真やレントゲン写真を比較して詳細な説明を受けた結果、実際には顔の骨格的な長さに大きな変化はなく、歯の移動に伴う口元の筋肉のバランスの変化や、一時的な頬のこけなどが、そう感じさせていた要因の一つであることがわかりました。例えば、抜歯を伴う矯正治療の場合、スペースを閉じる過程で口元の筋肉の緊張が緩和されたり、噛む筋肉の使われ方が変わったりすることで、顔の印象が変わることがあります。また、矯正装置に慣れるまでの期間や、食事のしづらさから一時的に体重が減少し、頬がこけて見えることで、相対的に顔が長く見えることも考えられます。田中さんのケースでは、最終的に歯並びと噛み合わせが安定し、顔の筋肉も新しい状態に適応するにつれて、面長が悪化したという感覚は薄れていきました。この事例から、歯列矯正中の顔貌の変化に対する主観的な感覚と、客観的な事実との間には乖離が生じうること、そして不安を感じた際には速やかに専門医に相談し、正しい情報を得ることが重要であると分かります。思い込みで悩まず、専門家の意見を聞くことが解決への近道です。