約2年にも及ぶ長い歯列矯正期間を終え、ついにブラケットやアタッチメントが外れた日。その開放感と、鏡に映る美しい歯並びに、誰もが最高の笑顔になるでしょう。しかし、矯正治療の本当のゴールは、ここから始まると言っても過言ではありません。動かしたばかりの歯が、元の乱れた位置に戻ろうとする「後戻り」を防ぎ、その美しい歯並びを一生涯維持するために不可欠な装置、それが「保定装置(リテーナー)」です。歯列矯正によって動かされた歯の周りの骨や歯茎は、まだ完全に安定していません。リテーナーは、いわば「歯並びのギプス」のようなもので、歯をその新しい位置にしっかりと留め、周囲の組織が固まるまで支え続けるという、極めて重要な役割を担っています。リテーナーには、いくつかの種類があり、それぞれに名称と特徴があります。最もオーソドックスなのが、ワイヤーとプラスチックの床(レジン床)でできた「プレートタイプ」のリテーナーです。代表的なものに「ベッグタイプリテーナー」や「ホーレータイプリテーナー」があります。丈夫で調整がしやすいのがメリットですが、ワイヤーが見えることや、装着時にやや違和感があるのがデメリットです。近年人気なのが、透明なマウスピースの形をした「マウスピースタイプ(クリアリテーナー)」です。目立ちにくく、装着感も比較的良いのが特長ですが、耐久性がプレートタイプに劣り、噛み合わせる面を覆ってしまうため、歯ぎしりなどで穴が空きやすいという側面もあります。そして、患者さん自身が取り外す必要のない「固定式(フィックスドリテーナー)」もあります。これは、主に下の前歯の裏側に、細いワイヤーを直接接着するタイプのものです。後戻りが最も起こりやすい下の前歯を24時間確実に保定できるのが最大のメリットですが、ワイヤーの周りに歯石が溜まりやすくなるため、清掃には注意が必要です。リテーナーの装着期間は、一般的に歯を動かした期間と同程度か、それ以上とされています。医師の指示を守り、このリテーナーと真摯に向き合うことこそが、あなたの努力の結晶である美しい笑顔を守るための、唯一の方法なのです。